『DEADLOCK』(キャラ文庫・徳間書店)シリーズ、ロブ×ヨシュアの番外編。
2016年発行同人誌『LOVENEST』のおまけペーパーより再録。
Amazon Kindleで販売中の電子版には収録されています。
『アルパカより可愛い恋人』
ユウトが帰ったあと、ロブが鼻歌交じりにキッチンで片付けをしていると、ヨシュアが難しい顔をして隣にやって来た。
「ロブ、すみませんでした。私が間違っていました」
「え? 何? なんのこと?」
突然の謝罪に驚いて、持っていたお気に入りのノリタケのプレート皿を落としそうになった。危ない危ない。これは結婚祝いにカレンが贈ってくれたものだ。うっかり割ったりしたら口うるさい姉に、会うたび嫌みを言われてしまう。
皿を食器棚に入れてから、「ごめんよ、ヨシュア」と彼と向き合った。
「なんのことかさっぱりわからない。君、俺に謝らなきゃいけないようなこと、何かした? 俺はまったく覚えがないんだけど」
「アルパカの件です。私は嘘をつきました」
「……アルパカ?」
三秒ほど考えて、「ああ、あれか」とロブは大きく頷いた。
ディックが今、海外出張でアブダビにいて、ユウトは久しぶりのシングルライフを楽しんでいると言った。ロブは自分ならヨシュアが一週間もいないと寂しくして死んでしまうと話し、その際、寂しいと病気になって死ぬという説のあるアルパカを引き合いに出したのだ。
ロブはそんなアルパカは最高に可愛くてキュンとなると熱弁を振るったが、残念ながらユウトとヨシュアの同意は得られなかった。
「寂しいと死んじゃうアルパカに、キュンとならないかって話だな。やっぱり君もキュンとなるのか。そうか。うん。そうだと思ったよ」
同じ価値観を持つ必要はないが、パートナー同士で感じ方が似ているのはいいことだ。そのほうが物事に波風が立ちにくい。
「何も感じないユウトって変だよね」
「いえ、その点に関しては私もユウトと同じ意見です」
即座に否定され、首をかしげたくなった。
「じゃあ、君がついた嘘って何?」
「……ロブがいないと寂しくて死んじゃう、の件です」
言いづらそうな表情だった。
確かロブが「ユウトもヨシュアも情緒が未発達なんだよ。俺なんてものすごく情緒的な男だから、もしヨシュアに『ロブがいないと寂しくて死んじゃう』って言われたら、心筋梗塞で倒れちゃうよ。それくらい胸がキュンとなる」と冗談を言ったあと、空気を読めないヨシュアが「私は絶対にそんなことは言いません」と真顔で反論したのだ。
「そんなことは絶対に言わないと断言しましたが、考えているうちに、自信がなくなってきました。人生は長いので、もしかしたらこの先、言うことがあるかもしれません」
ほんのり頬が赤い。ヨシュアの感じている羞恥がどういうものか、ロブにはよくわからない。間違いを認める羞恥か、あるいは『ロブがいないと寂しくて死んじゃう』という恥ずかしい言葉を口にした羞恥か。
少し考えて、きっとヨシュアはそれほどまでにロブが好きだと告げている自分が恥ずかしいのだろうと解釈した。自分勝手な解釈でも幸せな気持ちになれるのだから、まったく問題はないはずだ。
「わかった。君の謝罪は受け入れるよ。その代わり、もう一度言ってくれない? 『ロブがいないと寂しくて死んじゃう』って。そっくりそのまんまだよ。いつか言いたくなった時のために、練習しておこう」
生真面目なヨシュアは嫌がりもせず、「わかりました」と真剣な顔で頷いた。重要な任務を与えられたような顔つきだ。
「……ロブがいないと寂しくて死んじゃう」
口調は硬いが台詞は最高だ。うっとりした。なんて素敵な言葉だろう。胸が十回くらいキュンとなる。キュンキュンキュンだ。もっと年を取ってから言われたら、間違いなく心筋梗塞になる危険な言葉だ。
「ああ、スウィーティ。君ってつくづく最高。アルパカより断然、可愛いよ」
ロブは感激のままヨシュアを抱き締め、「んーっ」と声を出して強くキスをした。キスが終わってからヨシュアは、珍しく不満そうな表情でロブを見つめた。
「アルパカに勝っても嬉しくありません」
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